キッシンジャー回想録「中国」

ヘンリー・A・キッシンジャーは現在98歳、日本で言えば戦後の高度成長期に属するというよりは、安保世代に自分は帰納するという方たちには有名で、その他ではアメリカを代表するユダヤ人というぐらいの認識が一般的だと思います。ついでに言えば、ニクソン、フォードという凡庸で強欲な二人のアメリカ合衆国大統領を「補佐」したというより「連れ歩いた」、知的な偉丈夫でしょうか。

キッシンジャー回想録「中国」は今年(2021年)刊行された政治関連書物では断トツに優れています。この手の書物は読者の思想背景が幾ばくか審判に入るこむ宿命を背負っていますが、冷徹かつ流麗な名文で書かれると、逆にすらりと全体かつ部分を行ったり来たり、縦横無尽に読み込めるので、歴史を政治的側面から味わうのに格好です。

この本と同格と言えば、ウィンストン・チャーチルの「第二次世界大戦」まで遡るかもしれません。

両者とも、交渉術に長けていて世界を動かしました。言語の美を操れることとは、まさに魔法使いの愛(まな)弟子。